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今までありがとう [VOD]

また夢を見た。3人で暮らした小さなアパートだった。娘は小さな布団に入ってすやすやと眠っている。オレの仕事も落ち着いて。妻の病状も落ち着いて。ちょっと元気になった頃だった。妻とソファにもたれて。足を投げ出してテレビを見ていた。オレは娘の指人形を使って。「天使さん天使さん。新しい天使さんはどこにいるのかな?。天使を探してるけど来てませんか?」。とおどけた様子で言い妻のおなかに手を置いた。「私にはちょっと無理」そう笑ってオレの手を払いのけた。妻は視線を下に落とすと「ごめんね」とつぶやいた。ヤバイ傷つけちゃったかな?。そう思った。妻は顔をあげて真っ直ぐにオレを見つめた。笑顔の妻がそこにいた。「ごめんね・・・今までありがとう」。ちょっと小首をかしげてそう言った。ハッとして目覚めた。その夢の意味がわかったのは。それから数日後の事だった。




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娘の成長 [VOD]

義理の父からの連絡は途絶えたが。今度は妻が手紙を送ってくれるようになった。妻からの手紙を見ても。オレは酒に逃げることはなくなった。話題はいつも娘の事だった。受験した。高校生になった。彼氏ができた。大学生になった。サークルではモテモテで時々コンパ。熱心に勉強しているらしい。無事に就職も決まり。卒業したら一人暮らしを始めるのだとか。一人暮らしに関しては母娘で意見が衝突している。平気を装っているけれど心配でしょうがないらしい。その一方で自分の病状については一切触れていなかった。新しい夫のおかげで。十分な治療を受けているのだから大丈夫なのだろう。そう思っていた。




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夢を見ていた その3 [VOD]

夢を見ていた。あの春の夢だった。補助輪付きの自転車に乗る幼い娘。その後ろに付きそう私。ベンチに座って穏やかな微笑みで見守る妻。日光の暖かさ。桜の花びらを揺らすそよ風。本当に何でもない休みの日の光景。幸せだったあの春の日。子犬が娘に近づいて。小さな身体に似合わぬ大きな声で吠えた。驚いて泣き出す娘。ベンチから腰を浮かせる妻を制して娘を抱き上げるオレ。背中をトントンと叩き。こぼれ落ちた涙を指でぬぐう。それだけで娘は泣き止んだ。記憶は残酷に薄れていくけれど。妻と娘と3人で過ごした日々は。消えない足跡として確かに私に残っていた。




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